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3Dスキャナースプレーが必要な理由や選び方、メリット・デメリットを解説

近年、製造業や品質管理の現場で、光投影式の3Dスキャナー活用が急速に進んでいます。しかし、「光沢部品がうまくスキャンできない」「黒い対象物のデータが欠けてしまう」といった精度の問題に直面することも少なくありません。その原因は対象物の「光の反射」にあります。本記事では、こうした問題を解決し、スキャン精度を劇的に向上させる「3Dスキャナー専用スプレー」について、その必要性から種類、正しい使い方までを詳しく解説します。

3Dスキャナー専用スプレーとは何?

3Dスキャナー専用スプレーとは、光投影式の3Dスキャンを行う際に使用するエアゾール製品です。スキャン対象物が光沢を持っていたり、透明であったり、黒かったりすると、光が乱反射・吸収されてしまい、正確なデータを取得できません。このスプレーは、対象物の表面にごく薄く均一な白い粉末の膜を一時的に形成します。これにより、光が正しく反射されるようになり、スキャン精度を大幅に向上させ、データ欠損を防ぐ重要な役割を果たします。

3Dスキャナー専用スプレーが必要になる理由は?

光投影式の3Dスキャナーは、対象物に光のパターンを投影し、その歪みをカメラで捉えて形状を認識します。しかし、対象物が鏡面や光沢を持つ場合、光が乱反射してしまい、スキャナーが形状を正しく認識できません。また、透明な物体は光が透過し、黒色の物体は光を吸収してしまうため、同様にデータ欠損やノイズの原因となります。専用スプレーは、これらの表面を一時的にマットな(艶消し)白に変えることで、光を均一に反射させ、正確なスキャンデータを取得するために必要不可欠です。

3Dスキャナー専用スプレーの主な種類

3Dスキャナー専用スプレーには、使用目的や対象物に応じていくつかの種類があります。代表的なのは、スキャン後に自動で消える「昇華タイプ」と、手動で除去する「現像液タイプ」です。ここでは主要な製品を紹介します。

エイサブ

エイサブ(AESUB)」は、昇華性スプレーの代表的なブランドです。最大の特徴は、スキャン後の洗浄が一切不要である点です。塗布された成分は数時間で完全に昇華し、対象物に残留物を残しません。これにより、複雑な構造物や電子部品、デリケートな素材でも安心して使用できます。製品ラインナップには、昇華時間や塗布膜厚が異なる複数のタイプ(例:Blue、 Orange)があり、対象物のサイズやスキャン時間に応じて最適なものを選択できます。スキャン精度と作業効率を両立させるスプレーです。

ジェットスワン

ジェットスワン」は、本来、非破壊検査(浸透探傷試験)で使用される現像剤ですが、3Dスキャンの現場でも広く利用されています。これは昇華タイプではなく、対象物に速乾性の白い微粉末を均一に塗布するスプレーです。非常に速乾性が高く、塗布後すぐにスキャンを開始できるのがメリットです。安価で入手しやすい点も魅力ですが、スキャン後は洗浄や拭き取りによる除去作業が必須となります。自動車部品や金型など、スキャン後に洗浄できる対象物に適しています。

3Dスキャナー専用スプレーを使用するデメリット

高精度なスキャンに欠かせない専用スプレーですが、使用する際にはいくつかのデメリットや注意点も存在します。これらを理解せずに使用すると、かえって作業効率を落としたり、対象物を傷めたりする可能性があります。

除去作業が必要

昇華タイプ以外のスプレー(現像液タイプなど)を使用した場合、スキャン作業後に必ずスプレー成分の除去作業が発生します。この作業は、高圧エアでのブロー、ウエスでの拭き取り、あるいは洗浄液を用いた洗浄などが必要となり、作業工数とコストが増加する大きな要因となります。特に、対象物が複雑な形状をしている場合、粉末が隙間に入り込んで除去が困難になるケースもあります。スキャン対象の形状や後工程を考慮して、スプレーを選定する必要があります。

表面の精度が悪化

スプレーは対象物の表面にごく薄い膜を形成するため、厳密には元の形状に「厚み」を加えてしまいます。特に、スプレーの塗布が厚すぎたり、ムラになったりすると、その厚みの分だけ測定誤差が生じ、スキャンデータの精度が悪化します。シャープなエッジ部分が丸まってしまったり、微細な溝が埋まってしまったりする可能性も否めません。高精度な測定が求められる場合は、できるだけ薄く均一に塗布する技術と、膜厚の薄いスプレーを選ぶ必要があります。

仕様材質によっては使用できない

スプレーの成分が、スキャン対象物の材質と化学反応を起こし、変色や変質を引き起こす可能性があります。特に、特定の種類のゴムや樹脂、塗装面、文化財などのデリケートな素材に対しては注意が必要です。昇華タイプは残留物が残らないためリスクは低いですが、それ以外のスプレーを使用する場合は、事前に目立たない場所でテスト塗布を行い、対象物への影響がないかを確認することが不可欠です。使用前には必ずスプレーの仕様書や注意書きを確認してください。

3Dスキャナー専用スプレーの使用手順

専用スプレーの効果を最大化し、トラブルを防ぐためには、正しい手順で使用することが重要です。基本的なスプレーの塗布から除去までの流れを解説します。

材質・形状・スプレータイプの確認

まず、スキャン対象物の材質(金属、樹脂、ゴムなど)や形状(複雑さ、隙間の有無)を確認します。その上で、スプレーを選定します。例えば、スキャン後に洗浄できないデリケートな材質や複雑な形状には「昇華タイプ」を選びます。一方、洗浄が可能で、コストを抑えたい場合は「現像液タイプ」を選ぶなど、目的に応じた使い分けが重要です。また、使用するスプレーの取扱説明書を読み、対象材質への適合性や、昇華タイプの場合は持続時間(スキャン可能時間)を必ず確認しておきましょう。

乾燥後に測定する

スプレーを対象物から20~30cm程度離し、薄く均一に塗布します。厚塗りを防ぐため、一度にスプレーしすぎず、薄く重ね塗りするのがコツです。塗布後、スプレーが完全に乾燥するまで待ちます。スプレーが濡れた状態や半乾きの状態(液だれしているなど)でスキャンを開始すると、光が正しく反射せず、正確なデータは取得できません。表面が均一なマット(艶消し)の白になったことを確認してから、スキャンを開始してください。

スプレー剤を除去する

スキャン作業が完了したら、スプレー剤を除去します。「昇華タイプ」のスプレーを使用した場合は、除去作業は不要です。規定時間(数時間~十数時間)が経過すれば、スプレー成分は自動的に気化します。「現像液タイプ」などを使用した場合は、除去作業が必須です。まずは高圧のエアブローで大まかな粉末を吹き飛ばし、その後、ウエスでの乾拭きや、必要に応じてアルコールなどの洗浄剤を含ませたウエスで拭き上げます。

スプレー有りと無しでの取得データの違い

スプレーの有無は、スキャンデータの品質に決定的な違いをもたらします。 例えば、黒色の樹脂部品や光沢のある金属部品をスプレー無しでスキャンしようとすると、光が吸収されたり乱反射したりするため、スキャナーは形状を認識できません。その結果、取得した3Dデータは、表面が広範囲にわたって「穴あき(データ欠損)」状態になったり、実際には存在しない形状が「ノイズ」として現れたりします。これでは、リバースエンジニアリングや寸法検査に使用することは極めて困難です。

一方、同じ対象物でも専用スプレーを薄く塗布してからスキャンすると、表面がマットな白になるため光が正しく反射されます。これにより、データ欠損やノイズのない、滑らかで正確な表面形状データを取得できます。特に微細な形状やエッジ部分の再現性が劇的に向上します。

専用スプレーが不要なスキャナー

これまで解説してきたスプレーの必要性は、主に「光投影式」の3Dスキャナーに当てはまります。しかし、スキャナーの種類によってはスプレーが不要な場合もあります。例えば、レーザー光を用いる「レーザー式3Dスキャナー」の一部機種は、光沢や黒色の影響を受けにくい特性を持っており、スプレーなしでもスキャン可能な範囲が広いです。

EinScan Libre

黒色・光沢も得意な完全ワイヤレス・オールインワン機種である「EinScan Libre」は、タッチパネル液晶とバッテリーを本体に内蔵し、PCやケーブルを一切接続せずにスキャンが可能な最新モデルです。利便性だけでなく測定能力も極めて高く、101本のブルーレーザーと赤外線光源を搭載しています。これにより、従来はスプレーなしでは困難だった黒色樹脂や金属光沢のあるパーツも、そのままスムーズかつ高精細にデータ化できます。「スプレーもケーブルも無くしたい」という現場のニーズに応える革新的な一台です。

FreeScan Comboシリーズ

超小型・軽量ボディに2つの光源を搭載した万能モデル 「FreeScan Combo」は、重量わずか620gという圧倒的な軽さが魅力のハンドヘルドスキャナーです。ブルーレーザーと赤外線VCSELのハイブリッド光源を採用しており、自動車の内装や狭い場所での取り回しに優れています。26本のブルーレーザーを使用する「レーザースキャンモード」では、金属の切削面や黒い樹脂パーツもスプレーなしで高精細にキャプチャ可能です。

FreeScan Trio

「FreeScan Trio」は、3つの5メガピクセルカメラと98本のレーザーラインを搭載したモデルです。最大の特徴は、独自アルゴリズムにより「マーカー不要」でスキャンができる点です。スプレー塗布だけでなく、マーカー貼付の手間さえも削減できるため、準備時間を極限まで短縮できます。もちろんブルーレーザーにより、黒色・光沢ワークへの対応力も最高レベルです。

最適な3Dスキャナーを選ぶなら日本3Dプリンター株式会社へ

「光沢のある部品を測定したい」「黒い樹脂パーツのデータがうまく取れない」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ日本3Dプリンター株式会社へご相談ください。

当社では、今回ご紹介したようなスプレーを併用することで最高精度を発揮する光投影式スキャナーから、スプレーレスで測定可能な最新のレーザー式スキャナーまで、優れた3Dスキャナーを幅広く取り揃えています。

専門のスタッフがお客様の測定対象物(ワーク)や用途を丁寧にヒアリングし、最適な運用フローと機種をご提案いたします。実機によるデモやベンチマークテストも随時受け付けておりますので、導入前にその効果をしっかりとご確認いただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。

日本3Dプリンター株式会社について

日本3Dプリンター株式会社は、3Dプリンティングと3Dスキャニングの総合ソリューションカンパニーです。
2013年の設立以来、高性能な3Dプリンター、そして本コラムで解説した光沢・黒色部品のスキャンも得意なSHINING 3D社の高精度3Dスキャナーを提供しています。スキャナーのラインナップは、検査・測定、リバースエンジニアリングなど、幅広い製品を取り扱っております。

単なる製品販売に留まらず、お客様の課題解決に最適な機器選定、3Dスキャニング・3Dプリンティングの各工程における技術支援やコンサルティング、そして技術が定着するまでの手厚いアフターサポートまで、3Dデジタル技術の全方位をフォロー。製造業、研究開発、医療など幅広い分野で、お客様のイノベーションを加速させるソリューションを提供し、日本のものづくりを支援しています。3Dスキャナー・3Dプリンターの導入、活用でお困りのことがあれば、ぜひご相談ください。

まとめ

本コラムでは、光投影式3Dスキャナーの精度を最大限に引き出すための「専用スプレー」について解説しました。

光沢や黒色の対象物に対し、スプレーによる表面処理は、データ欠損を防ぎ高精度な3Dデータを取得するために非常に有効な手段です。特に、洗浄不要な「昇華タイプ」の登場により、その利便性は大きく向上しています。

一方で、近年の技術進歩により、今回ご紹介したShining 3D製品のような「スプレーレス」でも測定可能な高性能スキャナーも普及してきました。

「専用スプレーを駆使して、今の機材で対応する」のか、あるいは「スプレー作業そのものをなくすために、最新機種を導入する」のか。 コスト、作業効率、そして求められる精度を天秤にかけ、貴社の現場に最適な運用方法を選択してください。以下バナーから、おすすめの3Dスキャナー情報をチェックしていただけます。こちらも合わせてご覧ください。

3Dスキャナーとは?選び方とおすすめ機種を解説 -
3Dスキャナーとは?選び方とおすすめ機種を解説

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著者:日本3Dプリンター株式会社 技術部

さまざまな3Dデジタルソリューションを提案する日本3Dプリンター株式会社技術メンバーです。
3Dプリンター/3Dスキャナーのエキスパートとして、皆様に有益な情報を発信していきます。

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