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人体3Dスキャンの活用方法とは?実際の事例や作成手順を解説

今ある姿をそのままに、リアルな3Dデータにする「人体3Dスキャン」この技術が今、医療、アパレル、エンターテイメントなど、さまざまな業界で注目を集めています。最先端の活用方法やビジネス導入のヒントはどこにあるのでしょうか。この記事では、人体3Dスキャンが実際にどのように使われているのか、具体的な導入事例を交えて徹底解説。さらに、スキャンからデータ作成までの基本的な手順も分かりやすく紹介します。

人体3Dスキャンとは何?

人体3Dスキャンとは、3Dスキャナーを用いて、人物の全身や体の特定部位の形状、時には色や質感までを精密に読み取り、立体的なデジタルデータ(3Dモデル)を作成する技術のことです。取得したデータは、個人の体型や特徴を正確に再現します。この高精度なデータを活用し、医療、アパレル、エンターテイメントなど多分野での応用が急速に広がっています。

人体3Dスキャンの用途

人体3Dスキャンは、個人の正確な体型データを活かし、医療分野でのシミュレーションや、アパレル業界でのバーチャル試着、エンタメでのアバター作成などに使われます。

歯科治療における顔のスキャン

歯科治療では、歯並びや噛み合わせの診断・治療計画に顔の3Dスキャンが活用されています。従来の歯型(口腔内スキャン)データと顔全体の3Dデータを統合することで、歯だけでなく、唇や顔の輪郭とのバランスを含めた総合的なシミュレーションが可能になります。特に矯正治療や審美歯科において、治療後の顔貌の変化を患者が視覚的に確認できるため、治療への理解と満足度向上に貢献しています。

医療器具のオーダーメイド設計

義肢や装具、インソールなどのオーダーメイド設計にも、人体3Dスキャンは不可欠です。患者の患部や体の形状をスキャンし、その精密な3Dデータに基づいて設計することで、既製品や従来の手作業では難しかった完璧なフィット感を実現します。これにより、装着時の快適性や機能性が大幅に向上し、治療効果の最大化や日常生活の質の改善に貢献しています。

フィギュア作成

個人の記念やギフトとして、本人そっくりのフィギュアを作成するサービスにも人体3Dスキャンが利用されます。高解像度のスキャナーで人物の全身を撮影し、そのリアルな3Dデータを基に3Dプリンターで出力。表情や服装の質感まで忠実に再現した、世界に一つだけのオリジナルフィギュアが完成します。ブライダルや子供の成長記録、ペットとの記念撮影など、思い出を立体的に残す手段として人気を集めています。

人体の検査

健康管理やリハビリ分野において、人体の「検査」ツールとして3Dスキャンが導入されています。非接触で短時間に全身の形状を測定できるため、姿勢の歪みや身体バランスを3Dモデルで客観的に可視化。また、フィットネス分野では、体型変化や筋肉の付き方を定期的にスキャンして記録し、トレーニング効果を精密に測定・分析するために活用されています。

VRアバター作成

VR(仮想現実)やメタバース空間で活動するための、本人にそっくりなアバター作成にも3Dスキャンが活用されます。全身をスキャンすることで、個人の体型や顔の特徴を忠実に再現したリアルな3Dアバターを生成。これにより、バーチャル空間でのコミュニケーションや会議、イベント参加において、より高い没入感とリアリティを得ることが可能になります。

3Dスキャナで人体をスキャンする手順

機材の選定

初めに使用する3Dスキャナーのタイプを選定します。ハンディ型、据え置き型(ターンテーブル式)、複数台のカメラを同期させるフォトグラメトリ式など、目的や対象のサイズに応じて最適な機材を選びます。人体に向けて安全な光源であるかどうかも非常に重要です。赤外線光源やLED光源などが比較的人体に対して影響が少ない光源とされています。レーザー光源の場合は危険度がクラス分けされており、クラス2以上の危険度の場合人体に向けることは原則禁止です。

対象者の準備

スキャン対象者には、スキャンに適した準備をしてもらいます。スキャン精度に影響するため、まず服装が重要です。光を反射しやすい光沢素材や、スキャナーの光を吸収してしまう黒一色の服、細かい模様やレース、メッシュ素材は避けるのが理想です。なるべく体にフィットした、明るくマットな質感の服が適しています。髪型も、スキャンデータが乱れやすいため、できるだけコンパクトにまとめてもらうか、スキャン用のキャップを着用します。また、メガネや光沢のあるアクセサリー類は、スキャン前に外してもらうのが基本です。スキャン中に動いてしまうとデータが乱れる原因になるので、安定した姿勢でスキャンを始めてください。

スキャン実行

準備が整ったら、実際にスキャンを実行します。据え置き型やフォトグラメトリ式の場合、対象者には所定の位置(ターンテーブル上など)で指定されたポーズ(TポーズやAポーズが一般的)をとってもらい、スキャンが完了するまで静止してもらいます。スキャン自体は数秒から数十秒で完了することが多いです。ハンディ型スキャナーを使用する場合は、オペレーターがスキャナーを持ち、対象者の周りを移動しながら全身または特定部位をくまなくスキャンしていきます。この際、スキャナーと対象物の距離を一定に保ち、スキャン漏れやデータの重複がないよう、ゆっくりと丁寧に動かすように心がけると、よいデータが取得できます。

データ処理

スキャンで得られるのは、点群データと呼ばれる無数の点の集合体や、複数の部分的なメッシュデータです。まず、これらの断片的なデータを専用ソフトウェア上で一つに統合する「位置合わせ」作業が必要になるケースが多いです。ハンディスキャナーの場合は、スキャン中にリアルタイムで自動合成されることも多いですが、複数回に分けてスキャンした場合などは、手動での調整が必要になることもあります。次に、スキャンデータに含まれる不要な情報を除去する作業を行います。対象者のほかに、床や周りのモノが一緒に映り込む事があるのでこの工程で、元の形状を損なわずに不要なデータだけを取り除き、後の編集作業に備えます。

データ編集・最適化

前工程で処理されたデータのままでは、スキャナーの光が届かなかった部分に「穴」や「欠損」が生じている場合があります。ソフトウェアの機能を使って、これらの穴を滑らかに塞ぐ「穴埋め」や「メッシュ修復」を行います。この作業で、完全な立体形状が完成します。さらに、色情報(テクスチャ)も同時にスキャンした場合、テクスチャのズレや影の補正、色調調整なども行います。最終的に、フィギュア製作(3Dプリント用)やVRアバターなど、使用目的に合わせてデータのファイル形式を変換したり、データ容量を軽量化したりする「最適化」を行い、3Dモデルデータとして納品・活用できる状態にします。

人体3Dスキャンをする際のポイント

使用する3Dスキャナの選定

人体スキャンに適した3Dスキャナーは、主に「ハンディ型」「据え置き型(ターンテーブル式)」「フォトグラメトリ式(ブース型)」の3種類に分けられます。

  • ハンディ型:
    オペレーターが手に持って対象者の周りを動かしながらスキャンします。小型で小回りが利くため、脇の下や髪の毛の隙間など、複雑な形状も捉えやすいのが特徴です。ただし、スキャン速度は比較的遅く、対象者は長時間静止する必要があり、オペレーターの技術によっても精度が左右されます。特定部位の精密なスキャンや、導入コストを抑えたい場合に適しています。

  • 据え置き型(ターンテーブル式):
    対象者がターンテーブルの上に立ち、回転する間に固定されたスキャナーが撮影します。ハンディ型に比べてスキャン時間が短く、オペレーターの技術差が出にくいのが利点です。ただし、回転中にわずかでも動くとデータに歪みが生じやすい点に注意が必要です。アパレルやフィットネス用途で、手軽に全身をスキャンする場合に多く用いられます。

  • フォトグラメトリ式(ブース型):
    数十台(時には百台以上)のカメラで対象者を取り囲み、一度に全方位から撮影し、その画像群から3Dモデルを生成します。最大の利点はその圧倒的なスキャン速度であり、対象者が動いてしまう心配がありません。表情や動きのあるポーズ、子供やペットのスキャンに最適です。一方で、設備が非常に大掛かりになり、導入コストは最も高額になります。

選定にあたっては、「スキャン速度」「必要な精度」「テクスチャの要否」「スキャン範囲」「予算」を総合的に比較検討することが重要です。

スキャン実施のポイント

正確なデータを取得するため、スキャン実施時にはいくつかの重要なポイントがあります。

  • 服装と髪型:
    スキャナーは一般的に、光を吸収する「黒い色」や、光を乱反射する「光沢素材(サテン、エナメルなど)」、形状が複雑な「レースやメッシュ素材」の認識を苦手とします。スキャン時にはこれらを避け、なるべく体にフィットした、明るくマットな質感の服を着用してもらうのが理想です。髪の毛もデータが荒れやすいため、できるだけコンパクトにまとめてもらうか、スキャン用のキャップを着用すると精度が上がります。

  • ・静止とポーズ:
    フォトグラメトリ式以外では、スキャン中の「静止」が絶対条件です。わずかな動きもデータの歪みやズレの原因となります。手足を広げたAポーズやTポーズなど、パーツ同士が重ならないポーズを維持してもらいます。

  • アクセサリー類:
    メガネやピアス、ネックレスなどの光沢があるアクセサリーは、スキャナーの光が乱反射し、データ欠損やノイズの原因となるため、事前に外してもらうのが原則です。

人体3Dスキャンの実際の活用事例

Lammert Scherer GmbH

人体3Dスキャンの医療分野における先進的な活用事例として、オーダーメイド義肢の製作プロセスを効率化したドイツ企業の取り組みを紹介します。

高精度な3Dスキャナー「EinScan H2」を用い、患者の腕を非接触で精密にスキャン。取得した3Dデータを基に義肢のソケットを設計し、3Dプリンターで試作品を製作します。このデジタルワークフローにより、手作業の型取りが不要となり、患者の負担を軽減できるようになりました。さらに、設計の修正やデータの再利用が容易になり、高精度なオーダーメイド義肢を短時間で製作でき「時間の節約」を実現することが可能になりました。

導入事例詳細はこちら
3Dスキャナーでオーダーメイド医療機器の製作を効率化

Hearing Beyond

3Dスキャンの活用は、補聴器の分野でも進んでいます。カナダの聴覚クリニックが3Dスキャナーと3Dプリンターを導入し、カスタム耳型(補聴器の装着部)を「即日」製作するプロセスを紹介しています。

従来、耳型の製作は専門ラボへの郵送が必要で、完成までに1〜2週間かかっていました。記事の事例では、患者の耳の型を高精度なデスクトップ3Dスキャナー「EinScan-SE」で取得したデジタルデータを調整し、3Dプリンターで出力します。

このデジタル化により、製作時間が約2時間に短縮され、患者はその日のうちにフィットする耳型を受け取る事ができるようになりました。さらに、一度取得したデータはそのまま保存されるため、調整や再製作が容易になります。これにより患者の「聞こえない日」をなくすという、医療サービスの質的向上に貢献しています。

導入事例詳細はこちら
「デジタル・アプローチ」EinScan3Dスキャナーで即日完成のカスタム耳型

神奈川県総合リハビリテーションセンター

リハビリに使用する自助具(スプーンやコップを持つ補助器具など)は、患者一人ひとりの身体に合わせる必要があります。神奈川県総合リハビリテーションセンターでは、3Dスキャナーと3Dプリンターを活用して、従来なら石膏での型取りが困難だった乳幼児や、じっとしているのが難しい患者でも、3Dスキャナーなら非接触かつ短時間で正確な身体データを取得することが可能になりました。このデータを基に3Dプリンターで自助具を製作することで、患者の負担を劇的に軽減しつつ、再現性の高い最適な器具を提供することに成功しています。

導入事例詳細はこちら
医療の新たなものづくりのカタチを目指し、 自助具や福祉機器の内製化を推進

人体3Dスキャンに関するQ&A

人体3Dスキャンをすることによる体への悪影響はある?

結論から言えば、人体3Dスキャンが体に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。多くの3Dスキャナーは、X線撮影(レントゲン)のような電離放射線は一切使用せず、代わりにLEDの可視光(構造化光)、赤外線、または安全基準(クラス分類)を満たした低出力のレーザー光を使用します。これらの光は皮膚や組織を透過せず、表面の形状を読み取るだけです。フォトグラメトリ式も、基本的には複数のカメラによる写真撮影と同じ原理です。ただし、レーザー式の場合は、安全とはいえ目に直接光を当て続けないよう、スキャン中は目をつぶるか、直視しないよう指示されるのが一般的です。

人体3Dスキャンの精度はどの程度?

人体3Dスキャンの精度は、使用するスキャナーの種類によって大きく異なります。医療器具や工業部品の設計にも使われる高精度のハンディ型スキャナーの場合、0.02mm〜0.1mmといった非常に高い精度(点群精度)を誇る機種も存在します。一方、ブース型で一瞬にして全身を撮影するフォトグラメトリ式の場合の精度は数mm程度のずれが生じることが一般的です。

ただし、これらはスキャナーの「カタログスペック」であり、実際の精度はスキャン対象や環境に左右されます。スキャン中に人がわずかに動くだけでデータに歪みが生じますし、黒い服や光沢のある素材、複雑な髪型などはスキャナーが苦手とするため、データ欠損やノイズが発生しやすいです。最終的な3Dモデルの品質は、こうしたスキャン時の条件や、その後のデータ処理の技術にも大きく依存します。

人体のスキャンに必要な時間は?

スキャン(撮影)自体にかかる時間は、方式によって大きく異なります。

  • フォトグラメトリ(ブース型): 最も速く、ほんの数秒で完了します。多数のカメラで一斉に撮影するため、対象者はポーズをとるだけでよく、静止し続ける必要がありません。
  • 据え置き型(ターンテーブル式): 対象者がターンテーブルで回転する間、スキャンが行われます。10秒〜20秒程度で撮影が完了するのが一般的です。
  • ハンディ型: オペレーターが対象者の周りをスキャナーでなぞるため、最も時間がかかります。全身をスキャンする場合、4分〜5分程度、その間は静止し続ける必要があります。

なお、撮影後に3Dモデルを生成するデータ処理時間は、システムによって異なり、数分〜数十分程度かかります。

最適な3Dスキャナーを選ぶなら日本3Dプリンター株式会社へ

日本3Dプリンター株式会社について

日本3Dプリンター株式会社は、3Dプリンティングと3Dスキャニングの総合ソリューションカンパニーです。
2013年の設立以来 、高性能な3Dプリンター、そして本コラムで解説した人体スキャンに適したものを含むSHINING 3D社の高精度3Dスキャナーを提供しています。スキャナーのラインナップは、人体スキャンはもちろん、検査・測定、リバースエンジニアリングなど、用途に応じた幅広い製品を取り扱っております 。

単なる製品販売に留まらず、お客様の課題解決に最適な機器選定、3Dスキャニング・3Dプリンティングの各工程における技術支援やコンサルティング 、そして技術が定着するまでの手厚いアフターサポートまで 、3Dデジタル技術の全方位をフォロー 。医療、製造業 、研究開発 など幅広い分野で、お客様のイノベーションを加速させるソリューションを提供し、日本のものづくりを支援しています。3Dスキャナー・3Dプリンターの導入、活用でお困りのことがあれば、ぜひご相談ください。

まとめ

人体3Dスキャンは、個人の体型を精密にデジタル化する技術です。医療でのオーダーメイド器具、アパレルでのバーチャル試着、エンタメでのアバター作成など、その活用範囲は急速に拡大しています。本コラムでは、具体的な事例からスキャンの手順、成功のためのポイントまでを解説しました。今後、メタバースやヘルスケア分野の発展に伴い、私たちの生活をより豊かにする技術として、その重要性はさらに高まっていくでしょう。以下バナーから、おすすめの3Dスキャナー情報をチェックしていただけます。こちらも合わせてご覧ください。

3Dスキャナーとは?選び方とおすすめ機種を解説 -
3Dスキャナーとは?選び方とおすすめ機種を解説

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著者:日本3Dプリンター株式会社 技術部

さまざまな3Dデジタルソリューションを提案する日本3Dプリンター株式会社技術メンバーです。
3Dプリンター/3Dスキャナーのエキスパートとして、皆様に有益な情報を発信していきます。

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